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北越雪譜のカンジキ+カスリ |
自分のプロフィール写真なのですが、雪中歩行をする老翁に見立てました。
雪国の重要な生活用具であるスカリを履いていますが、かんじきの親戚です。
先につけた縄ひもを手で持ち上げて歩行を助けるため、雪を漕ぐと言いました。
ドカ雪が積もった後、雪が深いのですっぽりはまって、足を取られて歩きにくい。
このため、体重を大きな面の履物で分散させようとした、生活の知恵です。
こうすれば、やさしく雪を押さえつけられるので、ミズスマシのように歩けます。
冬場に雪害で悩まされる地域の人にとっては、昔から必須の道具でした。
ところで、絵をよく見ると分かりますが、かんじきにスカリを装着していますね。
ダブルで使用したということは、元来かんじきを履くだけでも用を足せました。
つまり、雪が締まって来ると、かんじきだけでも歩行には難儀しないものです。
あるいは、このスカリを履いた人が先頭に立って、先ず踏み跡をつくります。
続いて、かんじき歩きの人が並ぶような、行進に役立ったのかもしれません。
ところで、集団で狩りをするマタギ(猟師)では、頭領をシカリと呼びました。
スカリとも呼んでいたそうですが、これって雪中歩行のスカリと同じですね。
漢字では、”縋”(すがる)と当てていますので、集団行動を指したのでしょうか。
どちらも、先頭に立って行動しますので、案外、語源は同じかもしれません。
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北越雪譜のスカリ・カンジキ |
さて、最近はスノーシューとか洒落た言葉づかいになりましたが、邪道でしょう。
やはり、日本人なら伝統の古民具として使われた呼び名を使いたいものです。
この絵なんですが、幕末に刊行した書物、「北越雪譜」から拝借いたしました。
著者は、鈴木牧之といって三国街道塩沢宿で商人をしていた文人画家です。
越後魚沼の雪国の生活を写した書籍でして、雪国百科事典ともいうべきか。
1837年(天保8年)に江戸で出版されると、当時のベストセラーになりました。
本書には、挿絵が数多く掲載されていますが、作者が原画を描いています。
雪国の人々が雪との厳しい闘いに耐えて生活しているのを、知ってもらいたい。
本人の思い入れが込められているようですが、無論、スキーなんかありません。
当時は、雪中を歩行する用具に止まって、滑って楽をする発想がないのです。
思うに、越後の冬は、気温が比較的高めなので、湿った重い雪が積もります。
豪雪地帯には違いないのですが、道路の雪を溶かすのに水を使うぐらいです。
だから、サラサラした軽い雪と違って、摩擦が大きくて滑らないかもしれない。
しかも、盆地から競り上がる山林も急で、滑られる斜面も見つけずらいのです。
結局、スキーのような用具は発達しなかったとしても、致し方のないことです。
ならば、北海道のような大地が広がり、寒冷の土地柄なら、どうなったのか。
昔は、蝦夷地と呼ばれ、先住民族としてアイヌの人たちが住んでいました。
ところが、調べたんですけど、カンジキのような歩く用具だけだったみたいです。
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ストーを履く樺太原住民 |
それでも、北方民族と交流のあった樺太アイヌは、しっかり活用しておりました。
犬橇のほかに、この便利な道具、スキーを使って冬の狩猟をしていたようです。
名前はストーといい、滑走面にアザラシの毛皮を張って滑り止めにしていました。
毛の方向が均一で、登りは逆立って滑らず、下りは毛が寝てよく滑る特徴です。
それで、この絵は江戸時代に編纂された『北蝦夷図説』で、紹介されました。
実際、探検家、間宮林蔵が行った樺太探検で見聞したことを基にしています。
短いスキーに乗っている原住民が描かれていますが、どう見てもスキーですね。
小手をかざし、獲物でも探しているので、重要な生活用具だったのが分かります。
一方、スキーの発祥はかなり古くて、数千年前にさかのぼると言われております。
遺物も、紀元前二千数百年頃と見られるものが、北欧で発見されていたとか。
神話にもウルというスキーの神様が出てくるそうで、生活に密着していたのです。
それに、中世の頃、ノルウェー北部の戦(いくさ)で、スキー部隊が活躍しました。
つまり、狩猟を生活の糧にした北方民族には、スキーは生活必需品だったのか。
それが、シベリアを経てはるか樺太(サハリン)まで、伝わったことにしておきましょう。
というわけで、明治時代、日本で本格的にスキーが伝えられたのは、学校教育の体育の一環だったり、レルヒ少佐のように軍用目的だったりしたわけでして、湿った重たい雪と山がちな国土の日本ゆえに、生活用具として定着すること自体、かなり無理があったのだろうとも、納得するのでした。
おまけ:
日本スキーの発祥前史についての文献的研究Author(s) 中浦, 皓至
Citation 北海道大学大学院教育学研究科紀要, 84: 85-106
会津地方における仕事着の名称をめぐって
神奈川大学 国際常民文化研究機構
佐々木長生 著
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