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2026年1月9日金曜日

中学生の頃は、ちょっと思慮の足りないお馬鹿な坊さんばかりのいる寺だと思ってしまったのが懐かしい ー 御室仁和寺(トラベル)

五重塔は美しい
     
鎌倉時代、その末期に書かれた随筆『徒然草』の第五十二段で書かれています。
そのタイトルは「仁和寺にある法師」と言い、国語の教科書にも登場していた。

作者は、兼好法師で教科書定番の古典ですが、文学の好きな人にはなじみ深い。
それで、この教科書から興味を持って、自分は全段を読み通してしまいました。

だから、仁和寺の寺院は、この古典を通して知っていたので訪ねたかったのだ。
実は、御室も仁和寺も同じ場所を指しますが、御室は宇多天皇の隠棲した御所。

仁和寺は、宇多天皇が創建した真言宗御室派の総本山になり二つが合わさった。
だから、御室仁和寺と呼びならわしますが、 このお寺の法師が登場するのです。

石清水八幡宮へ詣でたが、手前の寺院を参拝するだけで訪ねたと早合点をする。
少しのことにも、その道に通じ導いてくれる人は欲しいものだという教訓話ね。

兼好法師は、仁和寺によく出入りしており、僧の話を間近に聞いていたらしい。
だから、実際に見聞きした僧の話を、このように物語めかして語ったようだな。

それで、こういう古典を親しんでいたからこそ、一度は訪れて見たかったのだ。
今回の旅は、嵐電の御室仁和寺駅から参道を歩いて目指すと、すぐ仁王門です。

境内は広大ですが、書院造りの宸殿にあるお庭も美しく、花も活けられている。
仁和寺は、生花御室流の拠点だそうで、この書院の中で見事にマッチしていた。


        
さて、拝観していた女性グループが、重要文化財しかない寺と話していました。
他方、醍醐寺は国宝が沢山あると比較していて、文化財の比較でケチをつける。

つまり、京都のお寺にあっては、重要文化財なのは月並みな寺宝なのでしょう。
そんな風に思ってしまいましたが、御室桜が咲く頃には、景観も最高だろうな。

というわけで、徒然草に登場する仁和寺の法師の逸話は三段あると知りました。
石清水八幡宮の末社だけを拝んで帰ってきた法師に加えて、宴会の余興で鼎をかぶって取れなくなったお馬鹿な法師とか、狐に噛まれたけど反撃して一匹を殺した下法師などが登場しており、古典を勉強しておくと、拝観をしても感慨は深くなるものだと思った仁和寺なのでした。



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2025年10月19日日曜日

地方経済の疲弊を男女関係に絡ませて描くのも、道産子としてはいかがなものかと思う ー ホテルロ-ヤル(第149回直木賞受賞)

         
道東にあるホテルローヤルというラブホテルをモチーフにした短編小説集です。
簡単に言えば、北国のラブホテルで心をも裸にしてまさぐりあう男と女のお話。

ただ、そこに至るまで人には人の人生の大切な断片があり、抉り出しているな。
登場人物には、互いの孤独を重ねる中に見える、各人の心象風景が存在します。

北の大地のように心寒い気もしますが、それは地方経済の疲弊を象徴している。
明るく活気のある話なら、イケイケどんどんで、分かれても別の人が見つかる。

気に病むこともなく楽しく暮らせそうなお話なら、ラブホ経験も楽しいだろう。
ですが、タンチョウヅルが宙を舞うような、広大かつ荒涼な釧路湿原が原風景。

人生には有為転変もあり、商売も立ち行かなくなり、そこには経済が絡みつく。
実は、この小説を読んで、NHKの銀河テレビ小説”家族日記”を思い出しました。

このドラマは、話の筋の展開が沈鬱で、離婚の危機にある夫婦を描いています。
その中で、息子は、なんとか元に戻したいと一生懸命に力を尽くすという設定。

すでに半世紀前の放映ですが、主題歌を北海道出身の松山千春が歌ってました。
タイトルは”夜明け”で、未だに耳に残る良い曲なんだが、ドラマは視なかった。

ドラマ全体も暗いし、主役の河原崎建三が演じる夫のふがいなさが嫌だったな。
視聴しなくても、曲だけで思い出せるドラマですが、それが斜陽の港町、釧路。

一方、地元湖陵高校出身の大学の同窓生が、故郷が懐かしいのか話にしていた。
最近では、NHKドラマ "地震のあとで"の「UFOが釧路に降りる」も見ました。

釧路が舞台で舞台設定にラブホが出てくるのですが、この小説のオマージュか。
村上春樹の連作短編小説の一篇ですが、SFっぽい描き方で良くわからない小説。

とにかく、良くも悪くも釧路というか根釧地方はドラマの表舞台になるようだ。
というわけで、小説自体の筋書きは面白いので、是非一読をお勧めいたします。

ただ、R18指定っぽいので未成年には読んでもらいたくなくて、どちらかというと、酸いも甘いもかみ分けてきたような人生経験豊富の方々にぜひ読んでもらいたいと希望する自分なのでした。



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2025年10月9日木曜日

要するに、高度に組織化、複雑化された社会では、世相を生き抜くのがつらいと万人も思うのかな ー ”コンビニ人間”(第155回芥川賞)(2016年)

作者、村田沙耶香と著作
                   
人の気持がわからない発達障害というのが、主人公なのだからぶっ飛んでいる。
そんな人が、コンビニのバイトを十八年も続けられたのは症状が軽いからかな。

それより、食に対する興味がなく、ゆでた野菜に炊いたご飯で済ませてしまう。
そんな描写が出てきますが、偽りの同棲になった男性からは、餌という発言だ。

確かに、普通の人と違う考えで日常を送るのですが、そこに危害はありません。
彼女自身には満足な生活なのですが、生活リズムがコンビニに即しているのだ。

ある意味で不器用ともいえますが、所謂、周りの俗人との軋轢は避け難いのだ。
それが、大学時代の同窓生との付き合いで、話を合わせるのがつらそうな印象。

それでも、妹が授けたハウツーの処世術答弁でかわすあたり、不思議な面白さ。
こうして、発達障害の主人公は、カモフラージュで自分を演じて生きています。

ですが、日々平穏に暮らせたとしても、年齢に応じた環境とは齟齬が生じたな。
つまり、結婚もせずに独身で、異性との浮いた話もなく、コンビニアルバイト。

まあ、多数派で無難に生きる人々が彼女を苛めるのですが、それからは驚きだ。
まあ、読んでもらえれば分かりますが、好きでもない男性と婚姻する策略です。

そして一緒に住めば、社会的に標準的な年齢相応の女性の生き方が模倣できる。
常軌を逸脱した展開になっていくのは、まあ、小説だからと思って読みました。

でもねえ、コンビニで十八年も永年勤続なら、社内報で紹介されるはずだろう。
セブンイレブンでは、店員のサービスコンテストを社内で実施しているほどだ。

こういった報奨制度で、時給も多少上がるだろうから、暮らし向きも向上する。
なので、こんな小説の結末まで展開するのは、小説上の成り行きに過ぎないな。

というわけで、面白く読めましたが、主人公は改めてコンビニに規範を見出す。
実は、テレビでも紹介されていますが、集中力の要求される職種が発達障害向きだと紹介されていて、主人公にとってはそれがコンビニ店員だったのかもしれず、今や時代も様変わりして独身が気楽に生きるのも全員されて、小説は時代に遅れになっていると思うだけなのでした。



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2025年10月7日火曜日

途中二度ほど、黒い男の幻視が現れたり、時の流れを逆転させた位相が展開するなど、全体が幻想のように描写されてゆく ー ”しんせかい”(第156回芥川賞受賞)

作者、山下澄人
             
この作品は、実際に存在した”富良野塾”で暮らす塾生の主人公を描いています。
作者自身も塾生だった分けですから、生き様を投影したのは間違いないようだ。

ただ、舞台の【谷】が曖昧にされても、日々の織り成す自然や風土は北海道ね。
その描写は、住んだ人でなければ分からない細かい描写で土地を表現している。

そして、私塾は脚本家の倉本聰が私財を投じて運営し、北海道に縁があるのだ。
脚本を書いたドラマシリーズ、”北の国から”は、その舞台も私塾も同じ富良野。

このドラマが好きで欠かさず見ていた人なら、この作品を読みたくなるはずだ。
だって、場所を明かさなくとも、ドラマも小説も風景が接近しあっているのだ。

実際、具体的な土地を詳らかにせず、心象風景のように話が展開していきます。
塾は既に閉鎖されてしまい、その後で作品が発表されたのだから、追憶だろう。

そして、この塾への追想だと自分は思ったのですが、皆さんはどうでしょうか。
しかし、主人公が栄養失調で作業中に倒れてしまうなど、塾の生活は苛酷です。

作者は、塾の二期生として入りましたが、施設を塾生だけで建設する重労働だ。
学費も入寮費も不要で、代わりに食費は日々の農作業で稼ぎ出す肉体労働です。

逆に、一年先輩はそういった負担が軽減されているので、不平等かもしれない。
こうして、生活実態が描写されるのですが、これも過去に存在した塾への追慕。

一方、実験的な手法の小説が知られている作者は、北海道で執筆するのだとか。
それに読点で文節を切って理解を深めさせるよりも、読点の少ない文章が多い。

目から流れるように読み進めていく文体の上に、短文を重ねて意味を補強する。
ひょっとしたら、この作品でも文体に実験的手法の片鱗が現れているのかなあ。

それで、同時に収録された短編は、入塾の試験を受けに上京した際の回想です。
タイトルが風変わりで、これが受験間際の体験とは思えないほど異質な風景だ。

”率直に言って覚えていないのだ、あの晩、実際に自殺をしたのかどうか”だと。
合格の前に、見知らぬ土地への旅立ちと想像のつかない授業へ不安が募るのか。

というわけで、塾での貴重な体験が、作者自身のその後の人生を形作るのです。
作者は、現在、俳優かつ劇団を主宰するマルチな小説家なのですが、そこに至るには、この塾や北海道の風土が一種の触媒となって才能の開花を後押ししたのではないかと思わずにはいられないのでした。



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2025年10月5日日曜日

過剰な足し算の介護より、要介護者を尊重して、本人ができないことだけを支援する引き算の介護がマシ ー スクラップ・アンド・ビルド(第153回芥川賞)

右が、作者の羽田圭介
         
テレビで、”バス旅Z”を視ていましたが、この旅メンバーだった作家の作品です。
職業意識があって、旅先で書店を見つけては作品の刊行物を確かめていました。

もちろん、書店の主人にも律儀に挨拶して、稼ぎが印税だから本屋は大事だな。
バス旅リーダーが少しルート選定に雑な印象の中でも、本人は意外に細かいの。

地図帳を持ってしょっちゅう眺めていたのを思い出しますが、そんな彼の作品。
祖父と孫の関係に焦点を当てた小説ですが、紀行文学とは無関係で介護文学だ。

そんなジャンルがあるのかと驚いてしまいましたが、高齢化社会だから必至か。
主人公は、失業中で資格受験勉強に忙しい中を、まめに祖父の面倒を見ている。

だから、意外に孝行息子な雰囲気を醸しつつ、一方の祖父は要介護老人なんだ。
”死にたい”が口癖なってしまった祖父を見て、その願いをかなえようとします。

つまり、主人公の孫はあえて過剰に介護をして、先回りサービスをしてしまう。
なんでも面倒を見てあげると、本人も生きる気力がなくなるので冥途へ出立だ。

ただ、自分は認知症に罹った父親を一人で面倒を見たので、そんなに甘くない。
逆に寝たきりになってしまって、老人専門病院へ入院させるしかなくなるはず。

実に、生きる気力の無くなったお年寄りというのは、悲惨なものでかわいそう。
これも、祖父が、自活できず子供たちの間をたらい回しに遭った結果でしょう。

それで、その最後が長女の母親だったのですが、主人公と違って悪態がひどい。
そんな環境で老後を送るのが怖くなりますが、主人公は良く面倒を見ているな。

そんな彼にも彼女がいまして、出会うとモーテルへ直行で性欲のはけ口なんだ。
まあ、彼女にも愛想が付かされるのですが、自身は禁欲的に肉体の改造着手だ。

結局、自身の心境の変化もあってか、再就職がかなって主人公は家を離れます。
というわけで、同時受賞は、お笑い芸人ピースの又吉さんが書いた『火花』だ。

こちらの作品は、マスコミにも大々的に取り上げられて、大ベストセラーになりましたが、こちらの作品にしても、介護現場の人間関係をユーモラスに描いた描写があったりして、介護文学の分野として素晴らしい作品ではないかと、思うのでした。



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