Portrait of Kizette Adult |
この絵は、画家が六十代後半に描いた作品だそうですが、習作ではありません。
自分の娘をモデルにした肖像画なのですが、れっきとした完成作品なのですな。
この画家が一体誰なのか、それは後で種明かしをいたしますが、下手すぎます。
壮年の頃には旺盛に描いていましたが、戦争の影響で制作できなくなりました。
しかも、活動の中心だったフランスのパリからアメリカに拠点も移しています。
この影響があったのかは分かりませんが、実際、過去の名声は失われています。
もっとも、画家として成功して上流階級入りをしたので、生活に余裕はあるの。
日々の糧を得るために、絵を描く必要もなくなり、画力に緊迫感が失せたのか。
この間、かなり奔放な生活を送ったらしく、浮気、離婚、再婚と目まぐるしい。
私生活は放縦で、子供がいるのにもかかわらず、仕事と交際に明け暮れる日々。
ただ、肖像画家ですから、上流階級に出入りせざるを得ない事情はありました。
でも、自制心があれば、そういった乱れた関係に陥ることはなかったでしょう。
つまり、上流階級出身者が革命で難を逃れ、資産を売りさばいて糊口をしのぐ。
終いには売る物もなくなり、楽に手早く稼げる道を探した職業が画家の道です。
元々、裕福な家庭の出身なので、芸術に触れる機会は豊富にあったと思います。
なので、芸術学校の入学が二十歳すぎで、それから本格的に絵画を学び出した。
それでいて画家として成功したのだから、隠された才能はあったのでしょうな。
さて、そろそろ、一体、この画家が誰なのかを、種明かしするとしましょうか。
オートポートレート |
それは、アール・デコの画家として再評価された、タマラ・ド・レンピッカだ。
この絵は、もっとも活発に描いた時期の代表作ですが、車は緑色のブガッティ。
本人が操縦するという設定の自画像ですが、当時は先端のスポーツカーでした。
進歩した文明の象徴となる機械を連想させる、機能的実用的なフォルムの造形。
これが新時代の美意識として様式化したのが、1920年代ですが、はや一世紀前。
ですが、現代に通じた大衆に消費されるデザインの萌芽を感じさせてくれます。
というわけで、第二次大戦後の彼女は、1962年の個展が不評で筆を折りました。
ですが、亡くなる直前、アールデコの再評価が行われたのが1970年代、あのマドンナも四点ほどを所有するほどに人気が高まった現実があって、今では一点で落札価格が二十億円以上になった作品もあるぐらいだし、本当なら、金目当てで描いていた彼女なら、再評価による作品の価値をしっかり看取ってから旅立ちたかったのではないかと思った、自分がいるのでした。
おまけ:描き方が正にアールデコって感じだよね。
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