2020年11月8日日曜日

即興演奏のように聴こえる弾き方で、超絶技巧が求めながらも聴きやすいメロディを奏でる姿は、辻井さんの音楽を求める魂で表現したものなのだろう ーコンサート・エチュード第一番(カスプーチン)

   
例えば、プログレロックのファンにキース・エマーソンの未発表作と騙します。
このキースなる人物は、キーボード奏者で、三人組のELPのメンバーなんだ。

ロックにクラシック音楽の概念を導入したり、創作した楽曲が画期的でした。
例えば、ムソグルスキー”展覧会の絵”をアレンジした同名のライブ録音がある。

組曲の構成では”ブルースバリエーション”という曲があり、ジャズの引用だな。
ビル・エヴァンス作曲の”インタープレイ - Interplay”をモチーフに使いました。

要するに、ロック、クラシック、ジャズ、ブルースの壮大な融合の試みの一つ。
実際、彼自身も、ピアノ協奏曲を作曲してレコード録音を残しているほどです。

なので、クラシック音楽に詳しくないロックファンに言ってもガチ信じるはず。
でも、本当は、今夏、逝去されたロシアの作曲家、カスプーチンの作品だった。
ELP、展覧会の絵(ライブ)

リズミカルで躍動感にあふれた聞き逃せない作品で、もちろんジャズが下敷き。
動画では、弾き終わった後のお客さんの大歓声にほころぶピアニストの笑顔ね。

今や”盲目の”という冠すら不要になった、押しも押されぬ辻井伸行が弾きます。
ホントに素敵だけど、後ろの楽団員も神がかった演奏に喜んでいる様子なんだ。

すごいでしょって、日本人として自慢したくなったけれど、作曲家が気になる。
名前からして怪僧ラスプーチンやプーチン大統領の名に似ていて、ロシア人か。

ググってみると、その通りで共産主義国家のソ連邦時代に活躍した音楽家です。
彼自身はピアニストで、往年の名演奏者、アシュケナージとも同窓生なんだな。

これも、Eテレの追悼番組で経歴を紹介していたんだが、元々は軽音楽系の人。
クラシックを先行していても、敵性音楽とされていたジャズの虜になったんだ。

当時、かの国では自由主義社会の文化・風俗を弾圧して国民には知らせません。
他方、その手の情報を流布すれば、反体制主義者として取り締まりを受けます。

有罪で刑務所送りか、最悪はシベリアの強制収容所で強制労働を強いられます。
ジャズ音楽などもっての外で、きっかけは、耳にした短波放送のVOAだった。

流れる音楽に魅せられてしまって、譜面すらない時代、一音一音を採譜します。
こうして、頭に刻み付けた音楽の手法が、彼の作曲作品に結実したと言います。

そういえば、今どきの若者はラジオの存在すら知らない人も増えているんだな。
ネットでラジコから番組を聞くのが当り前だと思っているようだが昔は違うよ。

ボイスオブアメリカが短波の放送というのが分からんだろうが、ひと昔のお話。
まあ、レコードをプレイヤーにかけて聞く時代で、ダウンロードとは隔世の感。

しかも、手に入れるためにレコード屋さんで買うんだから、スマホより不便だ。
まあ、お店に出かけてショッピングする楽しみよりは、時間を取られても優雅。

肋骨レコード(Bone records)

増してソ連では、西側の音楽は禁止されており、みなブートレグの密かな販売。
要するに海賊版という事で、レコードはレントゲン写真のフィルムを流用です。

このため、撮影内容がレコードに移りこみ、肋骨レコードと言われた所以です。
確か二十年前、ジャズ奏者の坂田明さんが、TV番組でその取材をしています。

NHKのドキュメンタリー番組でしたが、これがなかなか面白かった分けなの。
レコードを探し出して、骨とう品市場の蓄音機で聞いてみたらベサメムーチョ。

そんな音楽を密かに楽しんでいたという、高齢のご婦人と共に聞き入っていた。
音質はお世辞に良いとは言えないのですが、音楽への渇きが勝ったのでしょう。

聞きながら、”私の列車はもうとっくに行ってしまいましたよ”と名科白を吐く。
過ぎた日々の思い出を懐かしみつつ、昔へはもう戻れない現実に気づいたのか。

というわけで、かの作品を聞くとソ連という時代背景を軸に回想がめぐります。
もっとも、とあるブロガーさんは、カスプーチンのことを”音大を出たキースエマーソン”という風になぞらえていて、なるほどジャズに魅了はされたが音楽の立ち位置はぶれないクラシックだったからこそ、あのような楽曲にもなったわけで、となればキースの方は、クラシックに感化を受けたけれども、根っこはロックだったなのだなあと思った自分がいるのでした。



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